IKUNOMUSICA2019② オーケストラの音をピアノで表現するには

まず、先生のレッスンで必ずと言っていいほどピアニストが指摘されるのが、ピアノの音ではなく、オーケストラの音をイメージして弾かなければならない、ということです。

ピアノ曲として弾くととても貧弱な伴奏になるオペラアリアも、実際オーケストラだと弦楽器40名ほどが鳴らしている音だったりするので、ピアノヴォーカルスコアの譜面とはイメージが全然違うのです。

 


まず弦楽器のレガートをピアノで再現するのが至難の技です。朗々と弦楽器が歌う旋律も、ピアノだと打鍵音がなるので階段を登るようなギザギザした音のつながりになり、本当のレガートにはなりません。普通のピアニストはこれが限界です、とそこで諦めてしまいます。

ところがここからが先生のレッスンの始まりです。

ピアノでもレガートはできるぞ!と先生は鍵盤の前に立ってペダルも踏まずに実践してくださるのです。モーツァルトも、ヴェルディも、プッチーニも、先生が弾かれるとピアノが歌い出すから不思議です。延びている音は減衰するはずなのに、クレッシェンドさえしているように聞こえ、長い長いレガートのフレーズが途切れずに続いて行くのです。鍵盤の中で弾くんだ、そして次の音がなっても前の音を保持すること。はい、原理はわかるのですが、なかなか体得はできないものですね。

 


先生のレッスンの次の段階はスフォルツァンドピアノです。

よくモーツァルトソナタスフォルツァンドピアノが書いてあると、ピアノではできないから、と無視してただその音を強く弾いて終わり、ですよね。実際モーツァルト時代のフォルテピアノですと音が鳴った後もやり方はあったようですが…

オーケストラでは、どの時代もスフォルツァンドピアノ、できますよね。最初強く弾いてすぐ弱くするなんて、弦楽器は得意ですよね。

これをピアノで再現するのが先生のレッスンです。やり方は企業秘密にしてもいいのですが、説明してもそう簡単にできないと思います。強く弾いてからハンマーをもう一度弱く鳴らす感じです。これにペダルを絡めるとスフォルツァンドピアノが実現できます。

モーツァルトのオペラでは必須のテクニックですが、おそらくほとんど使っている人はいないと思います。

 


他にも色々秘密の弾き方がありますが、最後に弦のピッツィカートの弾き方を。特にコントラバスとチェロでピッツィカートするときの音は特徴的です。ボロン、ボロンと長い残響があり、ピアノで再現するのは難しいです。これは説明もしずらいのですが、イメージを膨らませて、タッチとペダルでその音に近づけていきます。太い弦をはじくようなタッチとそのあとの残響をペダルも使って再現するのは、繊細な作業で、なかなか先生のOKをいただけない音の一つです。

 


初めてセミナーに参加するピアニストも、もれなくこれらの弾き方を2週間のうちには少しずつ理解していきます。ピアノの概念を超えていくこのレッスンはピアノ曲を弾く時にも音色や響きの引き出しを確実に増やしてくれることは間違いありません。