IKUNOMUSICA2019①コレペティトール部門

今年で7回目の参加になる歌手とコレペティトールのための国際セミナー、第13回生野ムジカ。イタリア留学時代からお世話になっているダンテ・マッツォーラ先生と奥様の多田佳世子先生のご指導のもと、今年は歌手3名、ピアニスト6名が受講することとなりました。

 


私はコレペティトール部門を受講したので主にピアニストたちの2週間について報告したいと思います。

 


コレペティトールの勉強はただオペラのピアノヴォーカルスコアのピアノパートを弾くだけではなく、オーケストラスコアをチェックして足りない音を楽譜に書き込んだり、歌手のパートを歌詞付きで弾き歌いしたり、台本の解釈に基づいた作曲家の意図を楽譜から読み取ってテンポ設定をしたり、フェルマータで音楽が止まる際の演劇的な間合いを考えたり、オペラの指揮者になるための下準備のような勉強が山のようにあるのです。もちろん指揮そのものも勉強します。

 


 副指揮者としてスカラ座で40年以上のキャリアがおありになるマッツォーラ先生はバロックの作曲家からモーツァルトをはじめとする古典派の作曲家、ベッリーニドニゼッティなどのベルカントオペラからヴェルディプッチーニヴェリズモの作曲家はもちろん、リヒャルト・シュトラウスワーグナー、またフランスのマスネ、ビゼードビュッシーなど本当に広範なレパートリーをお持ちで、ピアノリハーサルからオーケストラの準備、そして舞台を作る演出稽古の過程も知り尽くしていらっしゃり、また実際の公演ではプロンプターとしてスカラ座に立つオペラ歌手や合唱団を支え続けてこられました。

 


しかし雲の上のようなそのキャリアにも関わらず、各受講生の必要に合わせて大切なことをとても丁寧に実践的に学ばせてくださる貴重な先生です。

 


レッスンではどのオペラもオーケストラスコアをご覧になりながら指揮を振りつつ全ての歌手のパートを歌ってくださり、ピアニストは指揮に合わせてピアノパートを弾くのですが、ヴォーカルスコアに足りない音を指摘してくださるのはもちろん、ダイナミクス強弱やリタルダンド、アッチェレランドなどの速度記号、また曲中の速度変化の解釈もわかりやすく教えてくださり、基本は楽譜通りを推奨されるものの慣例となっている速度変化やフェルマータカデンツァについても知識が豊富で、レッスンを受けただけでそのオペラに必要な情報を雪崩のように受け取ることができるのです。

 


今回は私はヴェルディオテロの3、4幕、プッチーニ蝶々夫人全幕のピアノ、そして椿姫の1幕、2幕1場途中までの指揮を見ていただきました。

また他の受講生の指揮伴奏としてプッチーニラ・ボエームより1幕冒頭、また主要キャストのアリア、モーツァルトフィガロの結婚より1,2幕、主要アリアとレチタティーヴォコジ・ファン・トゥッテよりフェランドのアリア、愛の妙薬よりアディーなとネモリーノの2重唱やアディーナのアリアなども弾かせていただきました。

これだけの量を留学中に見ていただこうとしたら、週2回レッスンに行ってもおそらく3ヶ月以上はかかるでしょう。

自分のレッスン時間だけでなく、他の方のレッスンも全て聴講しますから一日6時間以上レッスンに張り付き、早朝、お昼休みに個人練習、夜は夜中遅くまでスコアチェックをする音楽漬けの2週間は、ほとんど留学初年度1年分の成果に匹敵すると私は思っています。

 


さらに歌手のレッスンではピアニスト全員それぞれ分担して伴奏を務めます。

たとえば経験のないピアニストは楽譜通り弾いているのに歌手から「歌いずらい」などと指摘を受け困惑することが良くあります。歌手は息をしなければいけないので、メトロノームのような音楽では窒息してしまうのです。

歌にどうやって合わせたらいいのか、それはピアニストも歌のパートを一緒に歌うことでしか解決しません。一緒に息をしながら歌手が歌いやすいように音楽を運んで行く、というのはしかし実際やってみるととても難しいことです。先生はその、とても伸び縮みする歌手との音楽を、ピアニストにもわかりやすく指揮しながら教えてくださいます。歌手が一つの曲を最後まで息が足りない、と思うことなく自由な気分で歌えるには、様々な間合い、伴奏の仕方のテクニックがあることが分かり、最終日のコンサートではピアニスト全員がそれぞれに歌手を支えることができるようになるのです。

 


②からはいよいよ具体的なセミナーの様子を報告したいと思います!