IKUNOMUSICA2019③ 「なんのオペラでしょう?」クイズ
IKUNOMUSICA③
Che opera e’?
「なんのオペラでしょう?」クイズ!
2週間のセミナーの中でたびたび受講生の頭をフリーズさせたのが、先生による「なんのオペラでしょう?」クイズでした!
どんなクイズかというと…
たとえばレッスンの中でうまく行かなくて自分への悔しさから涙する場面があったとして、その後のお食事の時などにその話になり、
“Sei stata bravissima! Percio’,non piangere,OK?”
セイスタータブラヴィッシマ!ペルチョ、ノンピァンジェレ、オーケー?
(とても上手だった!だから泣かないで、いいですか?)」
というようなお声かけがあったとします。
その後で先生が
Non piangere Liu〜♪
ノンピァーンジェレ
リュー♪
(泣かないで、リュー♪)
という一節を歌われ、
Che opea e’⁉︎
ケオペラエ⁉︎
(なんのオペラでしょうか⁉︎)
とクイズが出題されます!!
上記の一節はトゥーランドット1幕のカラフのアリアのとても有名なフレーズで、リューという主要登場人物の名前も入っていますので初級編の問題です笑!
出題は一言だけ、歌うといっても語りの部分だと音程なしで出題されるので頼りはイタリア語の歌詞とリズムだけです!
では他にどんな出題がされたか、いくつか挙げてみますね!オペラに詳しい方は答えられるでしょうか?
その1
書類を奥様に渡しながら
Leggi.(間をおいて)Leggi,
レッジ。レッジ。
「読んで」「読んで」
その2
お部屋の鍵を奥様から渡されて
エッコラキァーヴェデルニドソアーヴェ
「これがその甘い愛の巣の鍵です」
その3 長めの出題です!
お食事中に会話が途切れて静かになった時に
Che silenzio!
Che aspetto di tristezza spirano queste stanze!
ケシレンツィオ!ケアスペットディトリステッツァスピーラノクエステスタンツェ!
「なんて静かなんだ!この部屋にも何という悲しみの様相が表れていることか!」
さて、お分かりになりましたでしょうか?
オペラの歌詞を丸ごとイタリア語で勉強された方ならともかく、劇場でDVDで観たことがある、いくつかのアリアの伴奏ならしたことがある、歌ったことがある、というだけでは答えは想像すらつきません!
受講生も最初はきょとんとするのみ。先生の奥様からヒントをいただいて(有名なフレーズを歌ってくださったり)ようやくわかる数名とさらに苦しむ残りの人たち…
2週間の間、毎日のように出題されたこのクイズ!オペラの勉強とは何と膨大な知識量を必要とするのか…と受講生は目の前が眩む思いで空を仰いだのでした!笑
それにしても先生が教鞭をとられているスカラ座アカデミーのコレペティ部門の生徒さんたちは素早く解答できるそうですから、さすがです!
ではお待たせしました!答え合わせです!
その1
1幕2場
ウィンザーの奥様アリーチェとメグがファルスタッフから同じ文面の恋文を受け取り、お互いに読み合う場面
その2
チレア作曲「アドリアーナ・ルクヴルール」
第3幕1場の最後、
公爵がフェドーラの劇を好演した女優アドリアーナに夜の宴の招待をし、別荘の鍵を渡す場面
その3
モーツァルト作曲「コジ・ファン・トゥッテ」第1幕、哲学者ドン・アルフォンソが、恋人が戦場に行って悲しんでいるフィオルディリージとドラベッラの姉妹が今さっきまでいた部屋に入って言うレチタティーヴォ(語りの部分)のセリフ。
3問正解された方は相当なオペラ通ですね!
次の賛辞を差し上げます!
Degna di un’allievo di Don Basilio!!
デーニャディウンアリエーヴォディドン・バジリオ‼︎
ドン・バジリオの生徒にふさわしい‼︎
IKUNOMUSICA2019② オーケストラの音をピアノで表現するには
まず、先生のレッスンで必ずと言っていいほどピアニストが指摘されるのが、ピアノの音ではなく、オーケストラの音をイメージして弾かなければならない、ということです。
ピアノ曲として弾くととても貧弱な伴奏になるオペラアリアも、実際オーケストラだと弦楽器40名ほどが鳴らしている音だったりするので、ピアノヴォーカルスコアの譜面とはイメージが全然違うのです。
まず弦楽器のレガートをピアノで再現するのが至難の技です。朗々と弦楽器が歌う旋律も、ピアノだと打鍵音がなるので階段を登るようなギザギザした音のつながりになり、本当のレガートにはなりません。普通のピアニストはこれが限界です、とそこで諦めてしまいます。
ところがここからが先生のレッスンの始まりです。
ピアノでもレガートはできるぞ!と先生は鍵盤の前に立ってペダルも踏まずに実践してくださるのです。モーツァルトも、ヴェルディも、プッチーニも、先生が弾かれるとピアノが歌い出すから不思議です。延びている音は減衰するはずなのに、クレッシェンドさえしているように聞こえ、長い長いレガートのフレーズが途切れずに続いて行くのです。鍵盤の中で弾くんだ、そして次の音がなっても前の音を保持すること。はい、原理はわかるのですが、なかなか体得はできないものですね。
先生のレッスンの次の段階はスフォルツァンドピアノです。
よくモーツァルトのソナタにスフォルツァンドピアノが書いてあると、ピアノではできないから、と無視してただその音を強く弾いて終わり、ですよね。実際モーツァルト時代のフォルテピアノですと音が鳴った後もやり方はあったようですが…
オーケストラでは、どの時代もスフォルツァンドピアノ、できますよね。最初強く弾いてすぐ弱くするなんて、弦楽器は得意ですよね。
これをピアノで再現するのが先生のレッスンです。やり方は企業秘密にしてもいいのですが、説明してもそう簡単にできないと思います。強く弾いてからハンマーをもう一度弱く鳴らす感じです。これにペダルを絡めるとスフォルツァンドピアノが実現できます。
モーツァルトのオペラでは必須のテクニックですが、おそらくほとんど使っている人はいないと思います。
他にも色々秘密の弾き方がありますが、最後に弦のピッツィカートの弾き方を。特にコントラバスとチェロでピッツィカートするときの音は特徴的です。ボロン、ボロンと長い残響があり、ピアノで再現するのは難しいです。これは説明もしずらいのですが、イメージを膨らませて、タッチとペダルでその音に近づけていきます。太い弦をはじくようなタッチとそのあとの残響をペダルも使って再現するのは、繊細な作業で、なかなか先生のOKをいただけない音の一つです。
初めてセミナーに参加するピアニストも、もれなくこれらの弾き方を2週間のうちには少しずつ理解していきます。ピアノの概念を超えていくこのレッスンはピアノ曲を弾く時にも音色や響きの引き出しを確実に増やしてくれることは間違いありません。
IKUNOMUSICA2019①コレペティトール部門
今年で7回目の参加になる歌手とコレペティトールのための国際セミナー、第13回生野ムジカ。イタリア留学時代からお世話になっているダンテ・マッツォーラ先生と奥様の多田佳世子先生のご指導のもと、今年は歌手3名、ピアニスト6名が受講することとなりました。
私はコレペティトール部門を受講したので主にピアニストたちの2週間について報告したいと思います。
コレペティトールの勉強はただオペラのピアノヴォーカルスコアのピアノパートを弾くだけではなく、オーケストラスコアをチェックして足りない音を楽譜に書き込んだり、歌手のパートを歌詞付きで弾き歌いしたり、台本の解釈に基づいた作曲家の意図を楽譜から読み取ってテンポ設定をしたり、フェルマータで音楽が止まる際の演劇的な間合いを考えたり、オペラの指揮者になるための下準備のような勉強が山のようにあるのです。もちろん指揮そのものも勉強します。
副指揮者としてスカラ座で40年以上のキャリアがおありになるマッツォーラ先生はバロックの作曲家からモーツァルトをはじめとする古典派の作曲家、ベッリーニ、ドニゼッティなどのベルカントオペラからヴェルディ、プッチーニ、ヴェリズモの作曲家はもちろん、リヒャルト・シュトラウス、ワーグナー、またフランスのマスネ、ビゼー、ドビュッシーなど本当に広範なレパートリーをお持ちで、ピアノリハーサルからオーケストラの準備、そして舞台を作る演出稽古の過程も知り尽くしていらっしゃり、また実際の公演ではプロンプターとしてスカラ座に立つオペラ歌手や合唱団を支え続けてこられました。
しかし雲の上のようなそのキャリアにも関わらず、各受講生の必要に合わせて大切なことをとても丁寧に実践的に学ばせてくださる貴重な先生です。
レッスンではどのオペラもオーケストラスコアをご覧になりながら指揮を振りつつ全ての歌手のパートを歌ってくださり、ピアニストは指揮に合わせてピアノパートを弾くのですが、ヴォーカルスコアに足りない音を指摘してくださるのはもちろん、ダイナミクス強弱やリタルダンド、アッチェレランドなどの速度記号、また曲中の速度変化の解釈もわかりやすく教えてくださり、基本は楽譜通りを推奨されるものの慣例となっている速度変化やフェルマータ、カデンツァについても知識が豊富で、レッスンを受けただけでそのオペラに必要な情報を雪崩のように受け取ることができるのです。
今回は私はヴェルディのオテロの3、4幕、プッチーニ蝶々夫人全幕のピアノ、そして椿姫の1幕、2幕1場途中までの指揮を見ていただきました。
また他の受講生の指揮伴奏としてプッチーニのラ・ボエームより1幕冒頭、また主要キャストのアリア、モーツァルトのフィガロの結婚より1,2幕、主要アリアとレチタティーヴォ、コジ・ファン・トゥッテよりフェランドのアリア、愛の妙薬よりアディーなとネモリーノの2重唱やアディーナのアリアなども弾かせていただきました。
これだけの量を留学中に見ていただこうとしたら、週2回レッスンに行ってもおそらく3ヶ月以上はかかるでしょう。
自分のレッスン時間だけでなく、他の方のレッスンも全て聴講しますから一日6時間以上レッスンに張り付き、早朝、お昼休みに個人練習、夜は夜中遅くまでスコアチェックをする音楽漬けの2週間は、ほとんど留学初年度1年分の成果に匹敵すると私は思っています。
さらに歌手のレッスンではピアニスト全員それぞれ分担して伴奏を務めます。
たとえば経験のないピアニストは楽譜通り弾いているのに歌手から「歌いずらい」などと指摘を受け困惑することが良くあります。歌手は息をしなければいけないので、メトロノームのような音楽では窒息してしまうのです。
歌にどうやって合わせたらいいのか、それはピアニストも歌のパートを一緒に歌うことでしか解決しません。一緒に息をしながら歌手が歌いやすいように音楽を運んで行く、というのはしかし実際やってみるととても難しいことです。先生はその、とても伸び縮みする歌手との音楽を、ピアニストにもわかりやすく指揮しながら教えてくださいます。歌手が一つの曲を最後まで息が足りない、と思うことなく自由な気分で歌えるには、様々な間合い、伴奏の仕方のテクニックがあることが分かり、最終日のコンサートではピアニスト全員がそれぞれに歌手を支えることができるようになるのです。
②からはいよいよ具体的なセミナーの様子を報告したいと思います!
ナディア・ブーランジェのこと
ナディア・プーランジェは1887年にパリに生まれ幼い頃からたぐいまれな音楽の才能を顕し、14歳でガブリエレ・フォーレの弟子となり16歳でフォーレの代理としてマドレーヌ寺院のオルガンを任されるほど絶大な信頼を寄せられる。
作曲家、演奏者、指揮者としてはもちろん何より音楽教育家として名高く、多くの名音楽家が彼女の元から生まれた。
ピアニストでいえば、ディヌ・リパッティをとても若い頃から育て上げた。お弟子さん以外にも影響を与えた音楽家も数知れず。ラヴェル、ストラヴィンスキーをはじめ枚挙にいとまがない。
20世紀初頭にJ.S.バッハのカンタータやモンテヴェルディのマドリガルを蘇らせる。
モナコ公国の教会音楽監督としてレーニエ三世とグレース・ケリーの結婚式も執り行ったという。
そんな彼女が指揮をしたフォーレのレクイエムがYouTubeで見つかりました。作曲家を知り尽くした解釈は一分の隙もなく、美しさ極まった上に心を打つ演奏に釘付けです。
ちなみに、この演奏のためにナディアをアメリカに招待したのがニューヨークフィルの常任指揮者だったレナード・バーンスタイン、もちろん彼女のお弟子さんの一人です。奇しくも演奏会前に亡くなった指揮者ブルーノ・ワルターを偲んでの追悼コンサートだったとか。
お弟子さんの中にはクラシック以外の分野で活躍した方も多く、マイケル・ジャクソンのプロデューサー、クインシー・ジョーンズもその一人だそうです。
妹の作曲家、リリ・ブーランジェは女性初のローマ大賞受賞者。
こんな音楽の知の巨人を知らなかった自分が恥ずかしいですが、日本語での彼女に関する本はほとんど最近まであまり出版がなかったのも事実のようです。
ストルネッロ(Stornello)って?
ストルネッロ(Stornello)って?
ヴェルディのストルネッロはとても小粋な男女の掛け合いを女性側の視点で歌う楽しい曲です。
他の作曲家もストルネッロという題名の曲を書いています。例えばチマーラPietro Cimara、マルトゥッチGiuseppe Martucci、です。レスピーギOttorino Respighi はストルネッロを歌う女Stornellatriceという曲を書いています。
一体ストルネッロとはなんでしょうか?
イタリア語の辞書によると
17世紀以降イタリア中部で流行した短い民謡の形式で、恋愛や風刺を歌う
と書いてあります。
詩行の形式の名前なんですね?
他に、
ストルネッロというのは韻の踏み方がaABとなる5,11,11音節の3行詩で最初の5音節には花の名前を含む、
という記述も見つけました。
レスピーギの詩の中のストルネッロは模範的です
Fior di betulla :
Vorrei tu fossi il sole ed io la stella,
e andar pel cielo e non pensare a nulla!
白樺の花よ、
貴方が太陽であって、私が星であったらいいのに、
そうすれば大空をかけめぐり、何も考えずにすむ!
こんな感じで、花の名前の入った5音節の1行目に
11音節の2、3行目が続き、-ulla,-ella,ulla と韻を踏んでいます。
マルトゥッチも同様にストルネッロを甘いセレナータと呼んで歌詞に盛り込んでいます。
ところが、ヴェルディとチマーラの場合、
恋愛の曲ではあるものの、11音節のみの詩で、形式ではなく表題にとしてのストルネッロにとどまっています。
流行した小唄を表題に添えると粋な感じがしたのでしょうか?
その辺りは疑問が残りつつも、どの作曲家の曲も素晴らしいことは間違いがありません!
オテロ付録曲
オテロ付録曲
フルスコアの巻末にBallabili(舞曲集?)という曲が付録として付いていて、3幕のファンファーレのところで挿入するようにと書いてある。
オペラ全曲では挿入されているのを聴いたことがなかったので驚いた。
スカラ座初演1887年の7年後、1894年にパリでオテロを上演される際にバレエシーン用の舞曲として挿入されたものだそうです。
序奏に続いて
Canzone Araba アラビアの歌
Invocazioni di Allah アラーの祈り
Canzone Greca ギリシャの歌
Danza 踊り
La Muranese ムラーノ島の人々
Canto Guerriero 戦士の歌
という表題がついた曲が切れ目なく続いていく。
フルスコアで42ページ、なかなかのボリュームです!
クライバーのスカラ座「オテロ」映像
オテロの音源を探してスカラ座で検索したらクライバーの指揮した1976年の映像がYouTUBEにアップされていた!
オテロの3幕のコンチェルタートが複雑すぎてムーティの指揮でも迷宮入りしているように聴こえ、ほかの音源ではなんとカットされているものもあり(!)勉強するのに行き詰まっていたのです。
完全アウェーのヤジ轟々の中だというのに、クライバーの指揮はものすごい集中力だった。イタリアオペラの殿堂でしかもヴェルディの最高傑作を指揮するに当たり、クライバーは全ての歌詞を口ずさみ、舞台をしっかり見て合唱のキューまで出していた。これが外国人でできることは、どれだけの準備をしてきたかが伺える。
感情的なヤジが飛ぶとはいえ、私は素晴らしいヴェルディだと思った。クライバーが真摯にスコアを読み、ヴェルディの音楽を実現しようとしている、と思った。そりゃ、振り方は優雅だが、クライバーなんだから仕方ない!それでも気合はオケや合唱に伝わっていて、舞台全体がクライバーの指揮を実現していたのではないだろうか。絶頂期のドミンゴとフレーニの黒と白のコントラストが美しく、カプッチッリのイアーゴ(ちょっといい声すぎる)も贅沢。
合唱に実は驚いた。今のカゾーニ先生、その前のガッビアーニ先生の合唱も素晴らしいのだが、2代前の合唱指揮者の指導は歌詞が全てはっきりと聞こえてきてこれまた素晴らしい!迫力あるイタリア語に圧倒された!合唱の響きには合唱指揮者の個性が出るのですね。
このオテロはなんとその後日本ツアーで上演されたという!観た方は世界中の羨望の的になったことでしょう!!