福間洸太郎さんリサイタル2019年4月13日(土)サントリーホール

ベヒシュタインのフルコンサートグランドと福間さんのマリアージュ

サントリーホールスタインウェイではなく、CD録音で使用したというベヒシュタインを持ち込んでのリサイタル。

もちろん演奏は特筆すべき素晴らしさですが、繊細で色彩豊かなタッチを増幅させるベヒシュタインの楽器の力に感動!

福間さんの世界ツアーでもここまでの演奏は日本でしか聴けないかも?とさえ思わせる楽器と意気投合した素晴らしいリサイタルでした。

 


福間さんのタッチは軽くて繊細、それがスタインウェイのような響きのピアノだと残響が早く減衰してしまう原因になり、福間さんの思い描くレガートのラインをピアノが支えきれないことがありました。

ところが、ベヒシュタインだと軽いタッチでもかなりエッジの効いたしっかりした立ち上がりの音に加え、そのあとに広がる甘い柔らかい響きが次の音までふわりと会場に広がり、音から音へのレガートのリレーが途切れることなく紡いでいかれるのです。

これがフランスの曲にぴったり!もちろんハイドン諧謔に満ちたファンタジーと、シューベルトの最後の難解なソナタを細部まで計算されながら温かさに満ちた演奏に仕上げた前半もじっくりと浸れた時間でしたが、後半はフランスへと国が変わったらピアニズムも弾け飛んだようになって、楽しいばかりでした。

 


福間さんご自身が編曲されたサティのジュ・トゥ・ヴは有名なメロディーのまわりから色とりどりのキャンディや美味しいお菓子、お洒落な洋服が次から次に飛び出してくるような女子力高い?編曲になっていて、本当にお洒落で楽しい演奏でした!

このままお菓子のCM曲にすればとっても美味しそうで売れること間違いなし!です笑

 


それから、ラヴェルのラ・ヴァルス、去年の秋のリサイタルではピアノ独奏用のラヴェル自身の編曲を使って弾かれていましたが、確かにオーケストラや2台ピアノの版と比べるとメロディーに終始する編曲になっていて(おそらく当時独奏したピアニストの技量に合わせたものだったのではないかと)色彩的には物足りないものがありましたが、今回福間さん自身で編曲された演奏は実にリッチなバージョンアップで、ラヴェルの透明感がありながら分厚いうねるようなオーケストレーションをピアノで表現されていて素晴らしかったです。

 


アンコール3曲の最後はグリュンフェルト作曲のウィーンの夜会、ヨハンシュトラウスオペレッタ「こうもり」の有名な序曲とウィンナーワルツのリズムから、どんどん変奏が加速して行ってピアノの88鍵が狭すぎる!ような名演奏に!

これを聴きながら、ベヒシュタインはフランツ・リストが愛したピアノだったな、と思い出しました。どんなに速いパッセージも音が潰れることなく細かい粒が綺麗に揃って真珠のようにビーズのように弾け、パッセージに負けることなくメロディーはしっかりとしたラインをレガートで描き続ける、まさにこのピアノからリストのピアノ曲は生まれて行ったのかなあ、と何となく合点が行きました。リストのメロディーはオクターブや4和音だったりしてレガートで弾くのがかなり難しいのですが、ベヒシュタインなら相当助けてくれそうだとしばし妄想に浸ってしまいました。

 


私は福間さんのリサイタルを聴くのはこれで3回目、たまたま主催関係の方に紹介していただいて聴き始めたのがきっかけです。いつも感心するのは福間さんファンの出席率の高さ(サントリーホールはほぼ満席)と、アーティストへのリスペクトの高さです。お客様の8割か9割は女性で、みなさんかなりクラシックに精通されているかピアノ曲をよくご存知の方々とお見受けします。福間さんがフィギュアスケートの選手とのコラボレーションをされているので、どことなくファン層が重なっているのか、ショパンのバラード1番では、まるで神聖な礼拝のようなお客様の雰囲気にちょっと圧倒されました。。