ライナー・キュッヒル ヴァイオリン・リサイタル

言わずと知れた元ウィーンフィルの名コンサートマスター、ライナー・キュッヒルさん、個人的に生で演奏を聴くのは初めてでした。

 


リサイタルを聴いての一番の印象としては、キュッヒルさんと音楽があまりに自然に同期するので、難しさよりも音楽が心から心へ伝わり、真に音楽的なものは複雑で難しく格調が高くてもささやかに聞こえて優しい、というような演奏だったということです。本当の音楽家なら決してひけらかさない、その必要もない、ということを痛感しました。

 


まずタイスの瞑想曲をさらっと弾きこなした後(あまりもったりと弾かないお洒落な演奏)、メインディッシュのプフィッツナーのヴァイオリンソナタは、少しだけ危なげなところもありましたが、構成が素晴らしく3楽章が有機的にまとまっていて、あっという間に聴かせてしまった、という演奏でした。ピアノは特筆すべき忙しさて、うねりのような中にロマンチックなメロディーが歌い込まれ、これを弾き切られた加藤洋之さんの手腕には脱帽です。

 


休憩を挟んで後半はヴァイオリンの名曲シリーズ!ドヴォルザークのロマンティックな小品は4楽章それぞれにキャラクターを際立たせて歌い上げ、感動的でした。かつて旅行の時に観劇したウィーン国立歌劇場のオペラというと、何というか喜劇も悲劇もほどほどに軽さを残すお洒落なテイストが思い出されます。どんな悲劇的なオペラもオーケストラの美しい流れるような音楽ですっかり相殺されて気分良く終演を迎えたものです。

このドヴォルザークも、悲しくても楽しくても音楽の美しさが勝るというまさにウィーンの伝統を体現した演奏でした。

 


R.シュトラウスのオペラ「薔薇の騎士」よりワルツをV.プルジーホダが編曲した曲は、名指揮者、カルロス・クライバーの音楽を彷彿とさせ、ウィンナーワルツの洗練されたリズムが世界中の羨望の的だった全盛期のウィーンフィルニューイヤーコンサートのエッセンスを醸し出し、まさに贅沢そのものの演奏でした!

私はヴァイオリニストのステップが好きというか、いつも注目してしまうのですが、ほかの楽器に比べて左肩に負担が集中するからか、ヴァイオリニストは結構右足が動くんですよね。

この曲でのキュッヒルさんの右足はまさにワルツを踊っていて、曲に合わせてとても素敵なステップを踏まれていて印象的でした。

 


さて、この後の名曲シリーズは伝説のヴァイオリニスト、クライスラー、イザイ、サラサーテの名曲だったのですが、キュッヒルさんの演奏がまさに彼らの伝説を現代に蘇らせているような鬼気迫る名演で、これまた本当に贅沢の一言に尽きるものでした!特に最後のサラサーテ作曲カルメン幻想曲のラストは、ピアノを追い込むまさかの速さでのクライマックスに観客もどよめき、ピアニストも白旗をあげる演奏でした。

 


アンコールも2曲しっかり有名曲でしめてくださり、お客さんも大満足、プフィッツナーソナタのCDを購入した方はサイン会に参加できることになっていましたが、なんと100名ほどの長蛇の列となったそうです。

 


こんなに素晴らしいリサイタルが、ツアーではなく、神奈川県大和市の芸術文化センターだけの独り占めだったことには驚きを隠せません!しかも良心的なチケット代金、いいのでしょうか?遠方はるばるいらしていたお客様も多かったとは思いますが、何れにしても本当に幸せなひと時でした!!