スカラ座のダフ屋組合

当時スカラ座の正面向かって左側の通りVia Filodrammatici フィロドラマーティチ通りにはチケット売り場があった(今もあるのでしょうか?)。Appello アペッロと呼ばれるチケットの点呼もチケット売り場の前で行われた。

しかし気長に点呼に付き合えない場合はダフ屋に頼って3倍の値段を出してチケットを入手するしかない。

アペッロも一手に引き受けるスカラ座のダフ屋組合(!)のボス、マリオはいつも傍に大型犬を従えてVia Filodrammatici に立っていた。彼に直接頼めば、ほぼ間違いなくチケットが手に入った。

2003年頃にスカラ座の改修工事の間使われたミラノ郊外のアルチンボルディ劇場にも彼らはいた!その日の演目はムーティ指揮のフィガロの結婚で、チケットはAppello も行われないほど完売、でももしかして!の思いを胸にアルチンボルディに向かった。

開場直前の人でごった返す劇場前の広場に、犬を連れたマリオがいた!!マリオ!と声をかけてみると、今日は無理だ、と商売人としてはとても残念だという顔をした。マリオでもダメなのか…私がガッカリしているのを見るとマリオは、ちょっと待て、友達にきいてみるからここで待ってろ、と犬と劇場入り口の方へ消えた。どういうネットワークがあるのか分からないが、割と早くマリオは戻ってきた。3階席ではあるが正面の素晴らしい席のチケットを持って!!

その日のチケットだったら10倍といっても売れただろうし買ったと思うが、イタリア人は意外とこういう時律儀で、きっちり3倍の価格で売ってくれたと思う。

ありがとう!!本当にありがとう!!と感謝すると、楽しんで、とそっけなく笑ってマリオは犬と一緒に人混みの中に消えていった。

 


改修されたスカラ座がオープンすると、そのうちヴィットーリオエマヌエーレⅡ世のガレリアに、コンピュータで全てを管理する立派なチケットセンターが出来た。

直前までどの席が空いているか一目でわかり、定価で買える便利なシステム。

 

でも調べるとApello はあるみたい?ダフ屋も健在のようだ。マリオたちのダフ屋組合は締め出されずに残っているのだろうか?

手間がかかったり知り合いが強かったり、そういうイタリア的なコミュニケーションが凝縮されたダフ屋組合もまたスカラ座や劇場文化の一部のような気がしてならない。